T はじめに
本校では愛知県金融広報委員会より、平成20・21年度の2年間にわたり「金銭教育」の
研究委嘱を受けた。この研究委嘱を受けたとき、「金銭教育とは何をするの?」というのが正
直な感想であった。また、学校ではお金のことを教えることに対してタブー視する雰囲気もあ
り、校内では戸惑いがあった。
しかし、金銭教育について調べていくと、金銭教育は、「お金との付き合い方をしっかり考
え、自分の生き方や価値観を磨き、それを現実の生活に生かすことを学ぶこと」とあった。この
目標は、学校教育で行われている教育活動と多くの部分で重なる。
そこで、本校では、現行の教育課程を見直し、特に金銭教育に関わる学習内容を洗い出す
ことから研究を始めた。また、本校区は自治意識が高く、住民が積極的に地域に関わってきて
いる。さらに、学校に対しても協力的な地域である。この地域の教育力を本校の教育活動に生
かしていければと考えた。
これらのことから、研究テーマを「学校・家庭・地域社会が連携し、自立して生きようとする子
の育成」として研究をすすめることとした。
U 研究テーマ
学校・家庭・地域社会が連携し、自立して生きようとする子の育成 |
(1)
学校・家庭・地域社会が連携した金銭教育
金銭教育を進めるうえで保護者が学校の方針を理解し、
積極的に協力いただけることが、本校が進める金銭教育
を実りあるものにすることとなる。また、子どもたちにとって
最も身近な社会である地域の協力が必要である。地域の
支援を得て、地域に住む人々の生活や社会のしくみや働
きを知ることは、自分の今の暮らしと将来、自分と社会との
つながりなどを意識させることにつながる。それが、しいて
は自立して生きようとする子の育成につながると考える。
これらの点から、本日のシンポジウムは保護者や地域
の方々に、本校が実施している研究の一端をご覧いただき、今後の研究に積極的に協力をい
ただけるきっかけになればと考えている。
(2)
地域学習や体験的な活動を取り入れた金銭教育
金銭教育の学習は、生活に密接に関係している。そのため、本校は金銭教育の学習の
場を学校内だけにとどめないで、広く地域など校外にも広めて計画している。
また、教育活動の見直しをする際、学習内容をより実感的に捉えさせるために、学習活
動に可能な限り体験的な活動を取り入れるように工夫をした。
(3) 道徳の時間と金銭教育
地域学習や体験的な学習では、具体的で実践的な学習が行われる。一方、道徳の時間
では、お金やものに対する価値観、勤労観など多様な価値観に触れさせる。この2つが連
携して子供たちの生き方や価値観が形成されると考えている。
(4) 教科等と金銭教育
教科等の学習では、金銭教育と関連が深い生活科、社会科、家庭科、特別活動などを中
心に教育課程の見直しをした。指導案にもあるように、各教科等の指導目標や内容と金銭
教育との関連を「金銭教育とのかかわり」として明確にした。さらに、教科等で身につけた学
習内容を総合的な学習の時間などで体験的・問題解決的に学習していくように相互に関連
づけて指導してきた。
V 研究仮説
本校の教育課程を、金銭教育の視点から見直し、地域とのつながりを明確にした地域学習や体験的な活動を意図的・計画的に組み入れていけば、自分の生活を積極的に見直そうとする心情や態度が育ち、自分と社会とのつながりを自覚し、よりよい生き方を主体的に考え、努力する態度や意欲を育むことができるであろう。 |
W 研究内容
(1) 児童の実態
小学校の金銭教育で
は、ものやお金を大切に
する意識を育てることが
大きなねらいである。この
ねらいに関連した意識を
聞いたのが右のグラフで
ある。全校では9割の児
童が「ものやお金を大切
にしている」と思っている。
しかし、学年が進むにした
がって、「思う」と回答した
児童の割合が減少傾向に
ある。
これ以外に、児童の実態
から「学年が進むにしたが
って、持ち物に名前を書か
なくなる。」「学年が進むにしたがって、将来のことを家族と話し合うことが積極的にはできなくなってい
る。」などが分かってきた。
(2) これまでの各学年の実践
@ 1年生の実践
学級活動の時間に、ふれあい遠足や校外学習の事 前指導
として「おやつの買い方」などを学習した。
また、道徳の時間には、「節度・自制・自立」「勤 勉・努力」な
どについて学んできた。
A 2年生の実践
生活科の学習を金銭教育の観点から見直した。「まちたんけん」の学習では、奥町の様子や働く人た
ちに視点を当てた体験活動を行ったり、「みんなでつくろうフェスティバル」の学習では、お店屋さんの体
験活動を行ったりした。
また、1年生同様に、道徳の時間や学級活動で金銭教育とのかかわりを考えて見直しをした。
B 3年生の実践
社会科の学習では、地域の商店や工場を見学したり、調べた
りすることで、自分たちの生活とこれらの仕事との関わりを考え
る学習をしてきた。社会科で学習した「勤労」については、道徳
の時間にも学習を進めてきた。また、3年生からは、こづかい帳
を有効に活用できるように指導してきている。
C 4年生の実践
社会科では「ごみの処理と利用」を、総合的な学習の時間では
「エコ大作戦」など、ものや資源を大切にすることから金銭教育を
考えてきた。また、校外学習では、名古屋の貨幣資料館に見学に
行き、お金の歴史や価値について学習してきた。
今後、「エコ大作戦」を中心に学習を深めていく計画である。
D 5年生の実践
5年生から始まる家庭科は金銭教育の内容と密接に関連する。家庭科の学習では、学習効果を上げ
るために、体験的な活動を取り入れている。ロールプレインなどを取り入れ、意思決定の過程を体験させ
ることでより実践的な学習になるように考えている。また、他の教科でも自分の考えを持つことを重視した
指導過程を心がけている。
E 6年生の実践
6年生の実践では、家庭科、社会科、算数科などの教科や道徳、
総合的な学習の時間で金銭教育との関連を図ってきた。例えば、
社会科の歴史学習では日本の産業発展に視点を当てて授業を構
成した。また、修学旅行では、お土産を買う計画を事前に立てさせ、
お金の計画的な使い方を具体的な場面で実践した。
F 日新の実践
年間を通して、買い物の仕方などお金に関わる学習をしている。また、校外学習の時には、切符の買い
方なども体験させている。
X おわりに
「金銭教育とは何?」から始まった研究のため、遅々と進まない研究ではあったが、本日の公開授業では
多様な授業実践を公開することができた。この多様な実践をもとに、今後の実践を深めていければと考えてい
る。今後は、次の課題を考えていく必要がある。
@ 体験を通して学ぶ生活科や総合的な学習の時間に学んだ内容を心情面から支える道徳の時間との密接
な関連を図る必要がある。
A 子供たちがより主体的に金銭教育に取り組めるように、地域学習や体験的な活動の充実を図る必要があ
る。
B 金銭教育で学んだことを実際の生活の中に活かしていけるように、家庭との連携を進める必要がある。