●いのちと生活を支える環境●環境問題の歴史●経済社会活動と環境●環境問題と行政●環境問題の国際性
私たちが生きていく上できれいな空気や水が必要であることは言うまでもありません。また,静けさや緑などの自然もやすらぎと潤いのある生活を送る上で欠かせないものです。水俣病や四日市ぜんそく,イタイイタイ病といった公害病の発生はこのことを端的に示していますし,今でも多くの被害者がいることを忘れてはなりません。それだけではなく,私たちの身の回りにかつて残っていた緑や水辺が少なくなってしまったことに,潤いや落ち着きを失ってしまったことを感じている人も少なくないと思われます。
このように環境は私たちのいのちや生活を支えているものですが,私たちは様々の活動を通じて,環境に対して負荷をかけてきました。
わが国では戦後の高度経済成長の過程で鉱工業生産活動の急速な拡大が行われました。その結果,物質的な豊かさはほぼ達成され,各種のサービス活動も享受できるようになりました。しかし,一方で大気の汚染や水質の汚濁,自然の破壊も進むことになり,前に述べたような悲惨な公害病さえ引き起こしました。
その後公害防止のための対策が進められたことから,一部の汚染については改善が図られていますが,なお,都市を中心に公害は深刻な問題となっています。また,人々の欲求も物質的な豊かさから優れた自然や快適な環境を求める動きへと多様化しています。
このような環境問題の広がりの中で,私たちはより良い環境をつくることに努めなければなりませんが,そのためには私たちの様々な活動と環境との係り合いを理解することが求められると言えるでしょう。

戦前にも足尾銅山鉱毒事件,別子銅山煙害事件や大阪アルカリ事件,浅野セメント降灰事件などのような,かなり深刻な公害問題がありました。
しかし,戦前の公害問題は,鉱山活動によるものや単独の工場による環境汚染が中心で,その被害も特定の地域の主に農作物に対するものでした。
これは,日本の産業も繊維,雑貨などの軽工業が中心で重化学工業が少なかったうえに,日本本土に居住する人口が7,400万人(昭和19年)と,戦後ほど過密でなかったことなどによるものです。
第二次大戦によって,日本の生産設備の3割から4割が破壊されたといわれます。戦後の10年間は経済復興の期間でした。この間,環境問題は社会問題となるほどではありませんでしたが,東京,大阪などの大都市では,工場の生産活動による大気汚染,水質汚濁などが徐々にあらわれはじめました。
そこで,工場の設置を許可制にすることなどを定める条例がつくられるようになりました。
“もはや戦後ではない”という言葉で始まったこの期間には,石炭から石油へとエネルギー源の転換が行われ,石油化学工業が花形産業として各地に建設されました。そして,重化学工業コンビナートを中核とする地域開発計画が太平洋ベルト地帯の各地で展開されました。
このような産業の発展のあとを追うように熊本県の水俣病,四日市の呼吸器系疾患等の不幸な事件が発生してきました。
このため,国でも公害問題への取組みが始められ,工業用水法,工場排水法,水質保全法,ばい煙規制法など多くの法律が制定されました。同時に環境の保全のためには,社会資本の整備が非常に重要であることが認識されるようになり,下水道のような生活環境施設の整備計画が策定されるようになりました。
この時期は,経済の高度成長が続き地域開発が一層進展し,日本経済が飛躍的に拡大した高度経済成長期です。経済の高度成長は国民の生活水準を向上させ,敗戦時には想像もできなかったほど,豊かな生活を可能にしました。しかし,世の中よいことばかりではありません。環境汚染が全国的にみられるようになり,大きな社会問題となってきたのもこの時期です。第2水俣病といわれる阿賀野川の水銀汚染事件,イタイイタイ病などが相ついであらわれました。このような事情を背景として,42年に公害対策を総合的,計画的に推進するために,公害対策基本法が制定され,また騒音規制法,大気汚染防止法,航空機騒音障害防止法,旧海水汚濁防止法,公害健康被害者救済特別措置法(旧法)等の公害関係の法律が定められました。自動車の排気ガス対策も取り上げられました。
45年末の国会は,公害問題の議論が沸騰し,「公害国会」といわれたほどですが,この国会で公害対策基本法の改正を柱とする法体系の抜本的な整備改正が行われ,環境行政は飛躍的な前進を遂げました。特に46年には環境庁が新設され,それまでばらばらに行われてきた環境行政が,総合的,積極的かつ強力に推進されることになりました。
●環境年表

農林水産業は鉱工業とはちがって,その生産が自然の働きに依存しているという性格を持っていることから,国土や水の保持,大気や水の浄化,レクリエーション空間の提供など環境を保全する役割を果しています。
このような農林水産業と自然環境との相互依存関係は今でも基本的に変わっていませんが,生産技術の変化や経営形態の変化によって環境を汚染する例も出てきています。農薬による汚染や,肥料中の窒素,リンによる水質汚濁がそれです。また畜産経営の規模拡大によって農地に還元されないし尿が増加し,水質汚濁の一つの原因ともなっています。
●わが国の一次エネルギー供給量の推移

わが国では戦後の高度経済成長の過程で鉱工業生産活動は急速な拡大を示しましたが,特に1960年代には生産の規模は3.5倍にも拡大しました。なかでも鉄鋼や化学,石油精製,紙・パルプなどの重化学工業部門の拡大が著しく,これが環境汚染を深刻化させる原因ともなりました。
その後公害対策の整備によって産業公害に対する規制が強められたことから,企業による公害防止も進み,経済が高度成長から安定成長へと移行したこともあって,一部の汚染についてはかなりの改善がみられます。しかし,なお生産活動による環境への影響は大きく,また今後石油から石炭への燃料転換が進むことも予想されるので,公害防止のための努力が一層必要とされています。
1970年代に入り,第3次産業を中心としたサービス経済化が進んでいます。また人口も東京,大阪,名古屋の3大都市圏集中から,全国的な都市集中へと変わってきています。
このようなサービス経済と人口の都市集中によって都市は過密化し,自動車による大気の汚染や騒音,振動,事務所や生活排水による水質の汚濁,廃棄物の増大,近隣騒音などの問題を生んでいます。
都市・生活型公害は発生源での規制がむずかしく,また自動車保有台数もますます増えるとみられますので,早急にその対策を講じていく必要があります。
●都市域における高密度化

公害対策基本法(昭和42年制定,同45年改正)は,公害の範囲として,大気汚染,水質汚濁,土壌汚染,騒音,振動,地盤沈下及び悪臭をあげ,事業者,国,地方公共団体,住民が果たすべき責務を明らかにしています。そして,これに基づいて,公害を防ぐためのいろいろな法律が整えられています。
●主な公害関係法の体系

人の健康を守り,生活環境を保全する上で,大気,水質,静けさなどについて維持されることが望ましい基準が環境基準です。この意味で,環境基準は,その基準を越えて環境が汚染されているとただちに健康が損われるというような性格を持っているものではありません。
現在,環境基準として次のものが定められています。
大気汚染{二酸化硫黄,一酸化炭素,浮遊粒子状物質,二酸化窒素,光化学オキシダント
水質汚濁{カドミウム,シアン,アルキル水銀等9項目(健康項目),生物化学的酸素要求量(BOD),浮遊粒子状物質(SS),溶存酸素量(DO)等(生活環境項目)
騒音{一般騒音(工場,事業場,道路交通等),航空機騒音,新幹線騒音
●環境汚染を測る指標

自然環境保全法(昭和47年制定)は,自然環境保全の基本理念を定め,国,地方公共団体,事業者及び住民の果たすべき責務を明らかにするとともに,自然環境保全基礎調査の実施,自然環境保全基本方針等の策定等について規定しています。そして,これに基づき,自然を守り,適正に利用するためのいろいろな法律が整えられています。
●自然環境保全制度体系図

環境問題は極めて地域的な問題であるという側面をもっていますが,他方では,「環境に国境はない」と言われるように国際的な側面を持っています。例えば,多くの国が国境を接しているヨーロッパなどでは,国境を越えて起こる,いわゆる越境汚染の問題の解決が大きな課題となっています。日本は,島国であるために今のところ越境汚染の問題はありませんが,それでも海洋汚染や,渡り鳥の保護の問題などの国際的な協力がなくしては解決が出来ない問題に直面しています。
また,日本や欧米の先進諸国では,日本と同様に1960年代から1970年代にかけて大気の汚染や水質の汚濁などによる深刻な環境汚染に直面し,環境問題が国際的に共通の課題となりました。そのため各国の国内的な環境問題に対応するに当たっても,同様な課題に直面する他国と国際的な情報・技術の交換などの国際協力が極めて大事になって来ています。
これらの国際的な課題に対応するため,国際的には,国連環境計画(UNEP)や経済協力開発機構(OECD)などの国際機関が様々な研究活動,情報交換を行っているほか,海洋汚染の防止や野生動物の保護などの分野で多くの多国間条約が結ばれています。
わが国においては,UNEPの活動のための「環境基金」の一割を負担していますし,OECDの活動についてもメンバーの一員として積極的な寄与を行っています。また米国や西ドイツとの情報・技術の交換をはじめ,二国間の協力も進めています。
空気も水も大きな目で見れば地球という限られた範囲のなかで人類全体が共有している有限な資源です。「宇宙船地球号」という言葉がよく言われますが,限られた資源を共有する仲間同士として,国際的な環境問題への協力は今後ともますます重要なものになっていくでしょう。

環境問題が広く世界の人々に認識されるようになった大きな契機の1つとして,1972年6月5日〜14日スウェーデンのストックホルムで開催された「国連人間環境会議」を忘れることはできません。
この会議では世界の取り組まねばならない環境問題としては,大きく次の3点が取りあげられました。
1)1960年代に入り産業活動は飛躍的に拡大した結果,その活動に伴う排ガス,廃水,廃棄物も急増しました。これらは最終的に,かつては無限と考えられていた大気や海洋に投棄されていましたが,大気や水などの環境が受容し,浄化しうる能力を超えるほど多量になり,地球の環境には限界があることが明らかになったこと。
2)今,地球上では人口が急増している。将来急増する人口を支える基盤である農地も,エネルギー源としての鉱物資源も有限であって,枯渇と不足が予想される。さらに,地球全体は生態系(エコシステム)という複雑にからみあった微妙なバランスから成り立っており,人間が限界を超えた略奪を行えば地球全体が破滅することが明らかになったこと。
3)地球上の70%以上もの人々が発展途上地域に住み,その日の生活にもこと欠くような劣悪な状況下に置かれている。これらの人々は,工業による環境の汚染ではなく,人口の急増,低い栄養,質の悪い住宅,教育施設の不足,自然災害,疫病などに悩んでいる。人間が人間らしい生活を送るために必要な環境を確保することが環境問題に対する基本的な考え方であり,発展途上国における環境問題の多くは,低開発と貧困から生じていることが広く認識されたこと。
この会議では,上記の環境汚染問題,資源問題,低開発に起因する生活環境問題のほか,自然環境の保護,野生生物の保護及びこれらに関する教育的側面等幅広く討議され,その結果が「人間環境宣言」と109の勧告としてとりまとめられました。
宣言や勧告の中に盛られた環境問題は上記のとおり幅広い概念を持つもので,私たち日本人が考えている大気汚染や水質汚濁,自動車や飛行機の騒音などの狭い意味の環境問題の範囲を大きく超えています。

●UNEPの活動 UNEPは,「国連人間環境会議」の結果に基づいて設置された国連の機関です。


●大気汚染の現状と対策●水質汚濁の現状と対策●その他の公害の現状と対策●自然環境の現状と対策
大気汚染とは,大気中にいろいろな汚染物質があって,そのままでは人の健康や生活環境によくない影響が生じてくるとみられるような状態をいいます。
このような状態には,火山の噴火によるばい煙の発生など,自然活動に起因するものも含まれますが,今日の汚染は,その主要部分が工場,事業場の活動など人為的に発生したものによっていますから,法律では,これらを「大気汚染」としてとりあげ,規制を行っています。
代表的な大気汚染物質としては,(1)硫黄酸化物(二酸化硫黄,三酸化硫黄),(2)窒素酸化物(一酸化窒素,二酸化窒素),(3)一酸化炭素,(4)浮遊粒子状物質(粉じん,ばいじん),(5)光化学オキシダント(オゾン,パーオキシアシルナイトレート(PAN)など)があげられます。
人は大量の空気を呼吸していますが,この空気が汚れていると,汚染物質は呼吸器へ直接影響し,また,呼吸器を通じて体内にとりこまれ,それぞれ汚染物質の性質に応じて,体内の細胞,組織,器官に異なった影響を与えます。
大気汚染物質のうち,硫黄酸化物,粉じんなどの人体に対する影響としては,慢性気管支炎,ぜん息性気管支炎,肺気しゅ,これらの続発症などがあげられます。
光化学オキシダントは,眼のチカチカや,のどの痛みなどの症状が中心となっています。
また,一酸化炭素は血液中のヘモグロビンと結びついて体内の酸素交換を妨げます。粉じん中には発がん性があるといわれるベンツピレンや有害な重金属などが含まれることもあります。
植物に対する影響としては,農作物の生育障害,収穫量の減少,品質の低下などがあげられます。
●大気汚染に係る環境基準

大気汚染によって生じた被害の例としては,ロンドン(イギリス),ロサンゼルス(アメリカ),ミューズ(ベルギー),四日市(三重県)などの事例があります。
ロンドンでは,冬,暖房のために石炭を燃やしたために発生した粉じんと二酸化硫黄(亜硫酸ガス)によるスモッグが発生していました。特に,1952年12月5日からの5日間は無風状態で逆転層が発生していたため,汚染状態が続き,以後3週間ほどの間に平時よりも4,000人も多い死亡者がでました。
また,アメリカ合衆国の西海岸にあるロサンゼルスでは,1940年代より,晴れた暑い日に,白いもやがかかって遠くが見通せなくなる状態が生じ,目やのどに対する刺激や植物の被害,ゴムのひび割れなどの影響が見られました。これは光化学スモッグと呼ばれます。
日本での代表的な汚染の例は,昭和30年代後半に四日市で発生した呼吸器系疾患の多発です。これは,主に隣接する火力発電所や石油コンビナートから多量に排出された硫黄酸化物などの悪い影響によるものでした。
この例にみられるように,日本では昭和40年代前後に著しい大気汚染を経験しました。その結果現在では公害健康被害補償法により41の地域が指定されており,大気汚染系疾病の認定患者数は,54年12月末で76,340人となっています。
今後は,二度とこのような健康被害をくり返さないよう,未然防止に万全を期していかなければなりません。また,1日も早く,このような補償法が必要とされない日がくるようにしなければなりません。
大気汚染に関する環境基準は前ページ上の表のとおりに定められており,この基準を達成することを目標として,様々な大気汚染防止対策が進められています。
主要な大気汚染の汚染物質ごとの現状を見ると,二酸化硫黄による汚染は,排煙脱硫装置の設置等の諸対策が進められた結果,着実に改善されてきています。代表的な大気汚染地区に設置されている15測定局における二酸化硫黄の年間平均濃度は,42年度の0.059ppmをピークに年々減少し,52年度0.018ppm,53年度0.017ppmと著しく改善されてきていますし,また,環境基準を達成している測定局も年々増加し,全体に対する割合も52年度93.0%,53年度93.8%と着実に増加しています。
窒素酸化物は,硫黄酸化物と異なり,工場等の固定発生源に加えて自動車等の移動発生源のウエイトも大きい。15測定局における二向にあったが,49年度以降ほぼ横ばいとなっています。なお,53年度における測定結果について,環境基準との対応状況を見ると,環境基準の上限を超える高濃度測定局は,一般環境大気測定局では7.6%であって,これら高濃度測定局は大都市地域に集中していること,
また,道路際の自動車排出ガス測定局では40.5%であって,高濃度測定局の割合が高いことが認められます。
一酸化炭素は,44年頃までは増加する傾向にありましたが,その後自動車排出ガスの規制が逐次強化された結果,着実に減少してきています。一般環境大気測定局は全て環境基準を達成しており,また,自動車排出ガス測定局も94.9%の測定局が環境基準を達成しています。
光化学大気汚染については,オキシダント注意報等の発令日数が,49年に減少に転じ,54年は84日と53年に比べ半減しています,また,被害届出人数も50年当時に比べ大きく減少しています。
●主な大気汚染因子の推移

(注)継続してデータのある測定局における濃度の年平均値の単純平均値
大気汚染を防止するために必要なことは,ある地域において様々の発生源から排出される汚染物質の量を減らすことです。汚染物質の発生源として主なものは,工場・事業場と自動車です。
このうち工場・事業場に対しては大気汚染防止法により,各々の汚染物質について排出の規制が行われています。規制のし方としてはボイラーなどのばい煙を発生する施設に対し排出口での濃度などを基準値以下にするという方式が主なものですが,硫黄酸化物については,地域全体の汚染状態を考慮して,工場からの総排出量を基準値以下にするという方式(総量規制)も実施されています。
自動車の排出ガスについては,大気汚染防止法に基づいて,排出量の許容限度が定められ,これをうけて具体的な規制基準が定められています。
●大気汚染防止法体系図

(注)直罰とは,基準を遵守しない者に対して,改善命令などを経ることなく,直ちに罰則をかけることをいいます。
●自動車排出ガス規制効果の経緯(新型車)(NOx排出量の平均値)

これらの規制に対応して,工場・事業場では, 1)燃料の転換や低硫黄化 2)重油の脱硫(燃料から硫黄分を除去する方法) 3)燃焼技術の改善(低NOx燃焼技術など) 4)排煙脱硫装置や集じん装置の取り付けなどの様々な防止対策がとられています。また,自動車についても,規制基準に適合するようなエンジンの改良が進められ,特に乗用車については,世界で最も厳しいといわれた昭和53年度規制を満足する自動車の開発に,総てのメーカーが成功しました。
これまで国や地方自治体が行っている大気汚染防止対策を見てきました。その主な内容は工場や自動車などの発生源に対していろいろな規制を行い汚染物質の排出を少なくすることでした。この努力は今後も続けなければなりません。また,人体や生物に有害な物質なのに規制対象となっていないものについても検討を進め,その排出を防ぐことも必要です。このような規制の強化などを行う必要性を知り対策の効果を明らかにし,あるいは警報を出したり,工場に一時的に汚染物質の排出量を更に削減させたりするためには各地の大気の汚染を測定することが重要です。このために大気測定局が全国に設けられています。また,工場の煙突ごとに煙の汚れ具合を調べる装置をとりつけ地方自治体に設けられたテレメーターにより一日中監視し続けることも行われています。こういった監視測定は大気保全行政の必要条件であって,この努力がさまざまな対策を支えているのです。

水は,人の生活に欠くことのできない役割を果たしています。
炊事,洗濯などの日常生活に直接必要であるばかりでなく,農業用のかんがい,工業製品の生産,更に水力発電所など,水の利用は多方面にわたっています。
しかし,水と人の生活との関係は,このような水をいわば資源として考える水利用だけに限りません。川辺や海岸などは,住民の散策,水浴その他のレクリエーションや憩いの場であり,また広い水域は水産資源などの生育の場でもあります。
従って,水の環境問題は,単なる水だけでなくその水のある水域全体をとらえて,人の生活と係りの深い広い意味での生活環境の問題として考える必要があります。
水は,このように人の生活環境に極めて重要な位置を占めながら,水を利用する人の活動が逆に水を汚し,水質汚濁という公害問題をもたらしました。かつて清浄で豊かな水に恵まれていた所でも,産業排水や生活排水によって汚濁が進み,今日では,必要な水を近くに求めることは困難になっています。
また,大都市やその周辺などでは,水面の埋立てや水質の悪化によって,水浴などのレクリエーションの場が失われ,魚介類の生息などにも適さないようになってきています。
水質汚濁がもたらす環境悪化は,健康被害の面で,水俣病やイタイイタイ病などの悲惨な公害問題を発生させ,企業責任の追及と公害対策への反省を強く促しました。このような有害物質による汚染は,水道などの利用を困難にし,農作物や魚介類などの食品を汚染して危害を与えます。特に水銀,PCBなどでは,いわゆる生物濃縮を通じて,魚介類などに高濃度に含まれるという危険があります。このため,このような有害物質が含まれる工場排水などに対して,環境中への排出を厳しく規制する措置がとられるようになっています。
また,有害物質以外の有機物などによる水質汚濁も深刻な問題となっており,水道や農業用水などの利用にも障害が生じ,沿岸海域などにおいては,汚水の流入や赤潮の発生によって,魚介類のへい死などの問題が生じています。このため,工場排水の規制と並んで,下水道の整備による生活排水の処理など各種の対策が必要になっています。

水質の環境基準は,公害対策基本法第9条の規定に基づいて定められたものであり,達成し維持することが望ましい基準とされています。この基準は,水質汚濁防止法を中心とする水質保全対策を実施していく上での行政目標になるものですが,また公共用水域の水質汚濁の状況を判断する上での尺度ともなっています。
水質の環境基準は,人の健康の保護に関する基準(健康項目)と,生活環境の保全に関する基準(生活環境項目)とがあります。健康項目は,カドミウム,シアンなど9項目について,公共用水域の全体を対象に一律に定められています。また,生活環境項目は,BOD,CODなど7項目について,河川,湖沼,海域の別に,利用目的などに応じた基準値による水域類型(河川では6類型,湖沼では4類型,海域では3類型)を設けており,個別の水域について水域類型の中からひとつの類型を選択することにより,環境基準が定まることになっています。
豆知識
― BOD(生物化学的酸素要求量)
水中の有機物が微生物の働きによって分解されるときに消費される酸素の量で,河川の有機汚濁を測る代表的な指標。
― COD(化学的酸素要求量)
水中の有機物を酸化剤で化学的に分解した際に消費される酸素の量で,湖沼,海域の有機汚濁を測る代表的な指標。
― DO(溶存酸素) ―
水中に溶け込んでいる酸素の量
BODやCODでは数値が高いほど汚濁が進んでいることを示すが,DOは逆に数値が高いほど環境条件はよい。
― 汚濁負荷量 ―
BODやCODは,単位体積当りの水の消費酸素量として表され,水中の有機物の濃度の尺度に使われていますが,これに水量を乗じて有機物の量としたものを汚濁負荷量といいます。
●人の健康の保護に関する環境基準

●生活環境に係る環境基準

※類型による利用目的の適応性の内容は,湖沼,海域では河川と若干異る。
公共用水域の水質汚濁の状況は,最近では全般的に改善の傾向を示しており,特にかつて問題とされたカドミウムやシアンなどの有害物質(健康項目)による汚濁は,全国的にほぼ問題のない状況にまでなってきています。
しかし,様々な利水上の障害をもたらす有機汚濁(生活環境項目)については,一部の湖沼や内海,内湾,都市内の河川などで水質改善がなかなか進まず,なお高い汚濁の状況にあります。有機汚濁の代表的な指標であるBOD,CODについて各水域が環境基準を達成しているかどうかをみると,環境基準を達成している水域の環境基準類型指定水域の総数に対する割合は河川では60%,湖沼では38%,海域では76%が達成しているにすぎないという状況です。このような水質汚濁の現状をふまえ,生活環境項目については一般に汚濁発生源が多岐にわたることを考慮すると,環境基準を早急に達成することは困難であり,今後更に一層の水質改善の努力を進めていくことが必要であるということができます。
特に今後の水質保全対策を進めていく上で問題となるのは,瀬戸内海や東京湾,伊勢湾などのいわゆる広域的な閉鎖性水域です。これらの水域では,外洋との水の交換が悪く,汚濁物質が滞留しやすいという条件がある一方,後背地にある大都市や大工業地帯から大量の生活排水や産業排水が流入しているため,水質汚濁が進行し,環境基準の達成は非常に困難な状況にあります。

さらに,これら広域的閉鎖性水域をはじめとして,湖沼,内海,内湾などの閉鎖性水域においては,水交換が悪いために,リン,窒素などの栄養塩類の流入によって水中生物が急激に増殖し,水質が累進的に悪化するいわゆる富栄養化の問題が顕著になっています。富栄養化は,アオコや赤潮などを発生させ,水道や漁業などに障害をもたらしており,これら水域の水質汚濁の大きな要因ともなっています。
また,水質汚濁の場合,特に過去の汚染によって汚濁物質がたい積している水域では,これを除去しない限り,汚染が長期間続くといういわゆる蓄積性汚染の問題があります。水銀,PCBなどの有害物質が含まれるヘドロについては,全国的に除去事業が進められていますが,そのためには二次汚染の防止のための安全な工法と多額の費用が必要とされます。また,鉱山では,閉山後も坑内水などが流出し続け,それに有害物質が含まれることが多いため,長期間の排水処理対策が必要になっています。
●健康項目(有害物質)に係る環境基準不適合率 (備考)環境庁調べ

●生活環境項目に係る環境基準達成率

(備考)環境庁調べ
●水質汚濁の経年変化

(備考)建設省及び都道府県庁調べ
●主要河川の水質汚濁状況

(備考) 1.環境庁調べ(54年) 2.BOD値である。単位:ppm 3.( )内は53年調べ
●主要湖沼・内湾の水質汚濁状況

(備考) 1.環境庁調べ(54年) 2.COD値である。単位:ppm 3.( )内は53年調べ
公共用水域の水質汚濁を防止し,環境基準を達成するためのもっとも重要な対策は,水質汚濁防止法による排水規制の制度です。
水質汚濁防止法では,汚水を排出する施設(特定施設)を設置する工場や事業場(特定事業場)に対して排水基準が定められています。排水基準は,健康項目(9項目)と生活環境項目(14項目)のそれぞれの項目ごとに一定の濃度などで示されており,規制を受ける特定事業場は,公共用水域への排水口でこの基準に適合した排水を行わなければならないことになっています。排水基準には,国が全国一律に定めている一律基準と,都道府県がそれぞれの水域の状況に応じて一律基準よりも厳しく定めている上乗せ基準とがあります。
これらの排水基準を守らせるために,水質汚濁防止法においては,特定施設を設置する際の届出,都道府県知事による計画変更命令,改善命令,排水基準違反に対する罰則などの措置を定めています。このような排水規制が全国的に行われた結果,現在ではほとんどの工場や事業場(排水量が少いものなどは別として)で,排水処理施設の設置などによって汚水を処理し,問題のない排水を行なうようになっています。
さらに,人口や産業の集中によって大量の生活排水が流入する広域的な閉鎖性水域(湖沼や内海,内湾)で個々の排出源を規制するだけでは,環境基準の達成が困難である水域については昭和53年に総量規制の制度が導入されました。
総量規制制度は,上乗せ基準を含めた現行の排水基準では環境基準を達成維持することが困難な水域(指定水域)を対象にします。指定水域としては,特別措置法によって法律上総量規制が実施される瀬戸内海のほかに,東京湾と伊勢湾が指定されています。
規制などの負荷量削減対策が行われる地域は,指定水城に流入する汚濁負荷量が発生する地域(指定地域)であり,瀬戸内海では臨海の11府県のほかに京都府と奈良県,東京湾では,東京都,千葉県,神奈川県と埼玉県,伊勢湾では愛知県,三重県と岐阜県のそれぞれの関係地域が対象となっています。

規制対象となる水質汚濁項目としては,海域における有機汚濁の代表的な指標であるCODが指定されています。
総量規制を実施に移すには,汚濁負荷量の削減の目標や目標年度などを具体的に定める必要がありますが,これらの事項は,内閣総理大臣が国の公害対策に関係する各閣僚で構成する公害対策会議の議を経て54年6月総量削減基本方針として示されました。
具体的な負荷量削減対策は,55年3月基本方針に基づいて都道府県知事が総量削減計画を定め,これに基づいて実施しており,総量削減計画においては,その都道府県内の発生源別の削減目標量,目標量を達成するための方途などの事項が定められています。
総量削減計画に基づく負荷量削減対策の中心をなすのは,総量規制基準による規制です。総量規制基準は,1日当たりの排水量が50立方メートル以上の特定事業場に適用され,事業場ごとに排水量に一定の濃度を乗じて得た汚濁負荷量の値を許容限度とするようになっています。総量規制基準を定めるのは都道府県知事ですが,その設定方法については,中央公害対策審議会で専門的な立場から審議され,現実的に対応可能な範囲で定める必要があるとの基本的な考え方の下に,許容限度の算定方法や業種ごとの濃度の幅などを示した答申が行われ,この答申の内容に沿った方法が定められており,本年7月より規制が始められています。
また,水質保全上,大きな問題となっている富栄養化の問題に関しては,瀬戸内海について特別措置法に基づく,リン削減対策がとられています。
このほか,富栄養化対策として,環境庁を中心として,湖沼対策,海域対策,各種発生源対策(有リン合成洗剤対策,下水道の整備等,生活廃水対策,産業廃水対策等)が進められています。
●水質汚濁防止法の体系

●水質総量規制指定水域及び指定地域

騒音及び振動は,各種公害のなかでも日常生活に最も関係の深いものであり,また,その発生源も多種多様であることから,これらに関する苦情は例年公害に関する苦情のうちでも最も多くなっています。
工場,建設作業の騒音については,騒音規制法に基づく対策が進められています。また,いわゆる近隣騒音問題については,騒音防止に関する知識の普及・啓蒙を図るとともに,機器の低騒音化や建築物の遮音化等の対策が必要となっています。
工場,建設作業の振動については,振動規制法に基づいて対策が進められており,また,低周波空気振動については,具体的な対策事例の収集を主体とした防止対策に関する調査等が進められています。
自動車騒音・道路交通振動については,自動車本体から出る騒音の低減化,道路構造の改善,周辺対策等の各種対策が講じられています。
航空機騒音については,発生源対策,空港構造の改良,空港周辺対策が進められており,また,53年4月には空港周辺における住宅等の建築制限を含む土地利用制度を確立することを目的とする「特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法」が制定・公布され,同年10月特定空港として新東京国際空港が指定されました。
新幹線鉄道の騒音・振動については,国鉄において音源対策及び民家防音工事の助成・移転補償等の障害防止対策を行っています。また,在来鉄道の,騒音,振動については,環境庁において対策技術評価調査が行われています。
●騒音・振動防止対策技術の概念図


●騒音に係る苦情の内訳

(備考)環境庁調べ
悪臭は,騒音・振動に次いで苦情件数が多い公害です。このため悪臭防止法に基づきアンモニア等8物質が悪臭物質として指定され,都道府県及び9指定都市において規制地域の指定,規制基準の設定が進められています。
ごみ,し尿などの廃棄物対策としては,「廃棄物処理施設整備緊急措置法」に基づき,55年度を最終年度とする廃棄物処理施設整備計画が策定され,処理施設の整備が図られています。
産業廃棄物については,その処理対策の確立を期すために,処理状況の実態調査や処理施設の整備等が行われています。
●悪臭苦情の業種別内訳

地盤沈下は,30年以降大都市ばかりでなく,濃尾平野など農村でも認められ,現在35都道府県59地域で地盤沈下が観測されています。地盤沈下は,地下水の過剰な採取のほか水溶性天然ガスを溶存する地下水及び温泉水の採取によって生ずることが明らかになっているため,工業用水法等により地下水採取の規制が行われています。更に防止の徹底を図るためには,水使用の合理化,代替水源の確保等を図る必要があるため,これらの観点から法制の整備等が検討されています。
●全国の地盤沈下地域

●環境庁調べ
土壌汚染については,農用地の土壌汚染防止対策細密調査等により基準値を超える量のカドミウム,銅又は砒素が検出された地域について対策地域の指定,対策計画の策定等が進められ,所要の土地改良事業等が実施されています。また,金属鉱業等における公害防止対策も進められています。
農藥汚染については,農薬取締法により残留性,毒性等の審査基準の設定作業が進められるとともに,農薬使用規制が推進されています。
植生自然度の現状
植生自然度とは,人間の開発行為によって自然がどの程度改変されているかを植生の状況によって区分し,客観的に国土の自然環境の現況を表わすものです。
環境庁が行った第1回自然環境保全基礎調査では,この植生自然度を人間の手の多く入ったところから,原始的なところまで1〜10の10段階に区分しています。
これによると,名古屋と福井とを結ぶ線から西南の地域では,この地域本来の自然植生―いわゆる照葉樹林といわれる植生ではほとんど見当たらず,あっても点として散在している程度であり,この地域においては,本来の自然植生が既にほとんど姿を消してしまったことがわかります。一方,名古屋と福井を結ぶ線から東北の地域では,本来の自然植生が不連続ながらもある程度塊状にまとまって,奥羽山脈や北アルプスなどやや日本海側に片寄りつつ残っています。ただし,それらは,照葉樹林ではなく落葉広葉樹木や針葉樹林です。そしてこれらの自然植生の地域を取り囲むように人の手が入ったあとにできる二次林の地域が広がっています。また,北海道地域には本来の自然植生がかなり残っています。
人工林の多いのは東海,九州,四国,中国地方及び紀伊半島などで,更に,緑のない都市砂漠は東京から大阪まで太平洋岸に帯のように広がっています。

●植生自然度区分概要及び全国集計

●植生自然度10.9(自然度の高い天然林・自然草原)比率図(都道府県別)

干潟の現状
干潟は潮の干満によって水没と干出をくり返す海と陸の接点に形成されています。そこでは極めて豊かな生命の営みが行われ,生物の種も多く,有機物の生産も大きいので,干潟はそこに餌を求める渡り鳥の重要な渡来地になるなど,多くの生物にとってその生活の場であるとともに,豊かな海水の浄化力をもっています。
「第2回自然環境保全基礎調査」によれば,わが国では53年現在約5万7,330haの干潟が存在していますが,そのうち90%以上が千葉県以南の本州南岸,四国,九州にあります。特に,瀬戸内海には全国の干潟の27%に当たる1万5,275ha,有明海には39%に当たる2万2,229haの干潟が存在しています。
また,同じ「第2回自然環境保全基礎調査」によって干潟の消滅状況をみますと,20年当時8万5,591haの干潟が存在しましたが,53年までにその33%に当たる2万8,261haが失われています。主な海域別にみると,工業用地の造成なぞのために埋立が急速に進んだ東京湾や瀬戸内海ではそれぞれ8,000haを起える干潟が失われています。
●干潟の分布・消滅状況

(備考)
1.環境庁調べ
2.面積1ha以上の干潟についての調査結果である。
3.瀬戸内海は,大阪湾を含む。
野生動物の現状
人間と野生動物との共存を図り,適切な野生動物の管理を行うためには,野生動物の分布の全体像を明らかにする必要がありますが,52年度から53年度にかけて,「カモシカ分布調査」と「第2回自然環境保全基礎調査」の一環としてカモシカ以外の9種顯の大型哺乳類動物(ツキノワグマ,ヒグマ,シカ,サル,イノシシ,キツネ,タヌキ,アナグマ)について分布の調査が行われました。
それによると,カモシカは一時絶滅の危機にひんしましたが,保護が進められたので,生息数は増加してきています。しかし,ツキノワグマやヒグマ,シカなどについては,一部の地域において絶滅区画が広がっている種もあります。
●カモシカ分布図

(備考)環境庁 「カモシカ分布等調査」による。
我々が住んでいる日本列島は,火山活動をはじめ,種々の自然活動が組み合され,世界でも稀に見る変化に富んだ地形を呈しています。さらに亜熱帯地方から亜寒帯地方に至る細長い国土や散在する島々は,モンスーン地帯に属するため気候は比較的暖かく,年間降雨量も多く,この湿潤な気候は約6,000種にも及ぶ多様な植物を生み,約500種もの野鳥を生息させています。このような立地条件が渓谷・湖水及び滝などに豊かな水を供給し,地形とあいまってそこに繊細な美しい多様な景色を形作っています。
一方,市街地,農地などの可住地面積は,全国土面積約38万平方キロメートルの約22%に過ぎません。この狭い国土に約1億1千万人が生活し,かつ自由世界第2位の国民総生産を挙げる高度経済成長を進めて来た我が国の経済活動は,自然に対する種々の形でのインパクトを増大し,いわゆる自然破壊という現象が見られるようになりました。この様な無秩序,無定見な開発行為に対する反省が起り,昭和47年6月に「自然環境保全法」が制定され,同法の規定に基づき同48年10月に「自然環境保全基本方針」が閣議決定されるに至りました。
自然環境保全地域
自然環境の保全を図るため,これまでに上記基本方針にのっとり,環境庁長官は,昭和50年5月から,5か所の原生自然環境保全地域(自然環境が人の活動によって影響されることなく原生の状態を維持している区域であってその自然環境を保全することが特に必要な区域)及び5か所の自然環境保全地域(原生自然環境保全地域以外の区域のうち,自然的社会的諸条件から見て自然環境を保全することが特に必要な区域)を指定しました。
なお,都道府県知事により指定された都道府県自然環境保全地域は約430か所に及んでいます。
自然公園
自然公園法により,環境庁長官が我が国を代表する傑出した自然の風景地27か所を国立公園に,国立公園に準ずるすぐれた風景地51か所を国定公園として指定しています。このほか,都道府県の風景を代表する風景地291か所を都道府県立自然公園として知事が指定しています。また,昭和45年には「海のお花畑」といわれるような美しい海中の景観を維持するため,環境庁長官が国立公園及び国定公園の海面内に海中公園地区を指定できることになり,現在までに57か所(国立公園内に27か所,国定公園内に30か所)が指定されています。
このようにして指定された自然公園を適正に管理し国民の利用に供するために,公園内では建物を新築するというような風致景観を損なうおそれのある一定の行為は,許可を受けたり届け出をしなければ行うことができないこととされています。国立公園には,10か所に管理事務所が置かれ,その他の地域にも事務所を配置し,指導監督等現地管理にあたっています。
このように公園内における行為は厳しい規制を受けますが,規制を受けた私権の救済を図るため,昭和47年から国立公園の特別保護地区,第1種特別地域の民有地を買い上げるという途が開かれました。国定公園においても昭和50年から,この制度が適用されています。
●国立公園,国定公園および自然環境保全地域配置図(昭和54年3月末現在)

●原生自然環境保全地域(昭和55年3月末現在)

●自然環境保全地域(昭和55年3月末現在)

●国立公園(昭和54年3月末現在)

●備考:指定年月日の年号は昭和です。
●国定公園(昭和54年3月末現在)

●備考:指定年月日の年号は昭和です。
鳥獣保護
各種の開発等により,我々の周辺から鳥獣の姿が消えつつあり,国民の間でも野生鳥獣の保護に対する関心が急速に高まってきており,環境庁としても全国野鳥保護のつどい等の愛鳥週間行事を実施し,鳥獣保護思想の普及啓もうを図っています。
野生鳥獣は,鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律によりその捕獲を禁止しまたは制限するとともに,生息環境の保全を図ることとしています。このため,鳥獣保護区を設定し,特別保護地区を指定することにより水面の埋立,立木,竹の伐採などを規制の対象とし,生息環境の保全を図っています。また,絶滅のおそれのある鳥類については,特殊鳥類の譲渡等の規制に関する法律により厳しい規制が行われています。
渡り鳥については,国際間の協力が重要です。既に米国,ソ連,オーストラリアの三国との間に渡り鳥等保護条約が締結されています。また,特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約にも加入しました。
都市・森林の自然環境の保全
都市における自然環境の保全のために,都市公園整備5箇年計画に基づき都市公園の整備が進められています。また都市緑地保全法に基づく緑地保全地区などいくつかの都市の自然を守るための地域を指定する制度が整備されており,指定された地域では工作物の新築や樹木の伐採などの行為が制限されています。
また,国土の7割近くを占め,自然環境の保全の上からも大きな意味を持つ森林の保全のために,森林法に基づき開発許可の制度や保安林の指定が行われています。
国立公園・国定公園などの自然公園の利用者数は,年間8.2億人に及んでいますが,一部の地区では,過密利用が見られ,自然の荒廃のおそれもあります。
そこで,国及び地方公共団体は,公園利用拠点(集団施設地区)を指定し,基幹施設や自然の荒廃を防ぐための保護施設などを整備するほか,自然公園の利用指導を行っています。
休養施設・野外レクリエーション施設
最近の余暇の増大に伴い,自然を求めて多くの人々が優れた自然に親しんでおりますが,このニーズに応えるため,自然との調和を図りながら,自然公園等の優れた休養適地に,国民宿舎(345か所),国民休暇村(30地区)を整備するとともに,長距離自然歩道などの野外レクリエーション施設の設置を図っております。

1980年代の環境政策の課題
●未然防止の推進●エネルギーと環境●都市・生活型公害の防止●快適な環境づくり●自然環境の保全
人々は,経済社会活動の拡大を通じて,環境との係わり合いを深めるとともに,環境に対して大きな影響をもたらしています。このような人々の活動が生み出す環境への負荷を事前にチェックし,公害の防止,自然環境の保全を図っていこうというのが未然防止の方向です。
環境汚染の未然防止のためには,様々の開発計画の策定や事業の実施に当たって,環境への配慮がなされていなければなりません。OECD(経済協力開発機構)ではこれを「予見的環境政策」として加盟国共同の宜言を行い,環境政策の大きな柱としています。
わが国では,環境汚染の未然防止の必要性が早くから認識され,47年6月には「各種公共事業に係る環境保全について」閣議了解され,これを契機として環境汚染の未然防止のための環境影響評価が国及び地方公共団体によって広く推進されるようになりました。
環境汚染の未然防止をより有効に進めていくためには,事業の実施段階で行われてきた環境影響評価の実績を踏まえつつ,これを補うためできるだけ早い段階で環境への配慮を組み込んでいく予見的環境政策の一層の推進を図っていく必要があります。

1980年代における環境政策を考える上で,最近のエネルギー情勢の変化は見のがすことができない問題といえます。1973年の第1次石油危機につづき1979年の第2次石油危機の発生からもわかるように中長期的にみても世界の石油需給はひっ迫傾向を強めていくものとみられています。
わが国ではエネルギー需要の7割以上を石油に頼っていますが,このため省エネルギーの推進と並んで石油代替エネルギーの開発・利用を増やす必要があります。
省エネルギーつまりエネルギーの節約は環境への負荷の減少につながる訳ですから環境面からも基本的には推進すべきことです。
一方,石油代替エネルギーの開発利用ですが,これについては,原子力,石炭,LNG,地熱などのエネルギーが今後有望と言われています。しかし,この中で石炭は石油に比べ大気に対する影響が大きいことや,大量の石炭灰が発生するという問題があります。従って石炭などの開発利用にあたっては,環境の保全に十分な配慮が払われる必要があり,公害防止技術の開発にも一層努める必要があります。
●長期エネルギー需給暫定見通し

(備考)総合エネルギー調査会需給部会「長期エネルギー需給暫定見通し(中間報告)」54.8.31
都市の人口の集中はますます進んでいますが,これが都市におけるサービス活動の拡大や生活水準の向上と相まって都市・生活型公害とも言える公害を引き起こしています。交通機関による大気の汚染や騒音,振動,事務所や家庭の排水などによる水質汚濁,廃棄物の増大,近隣騒音問題などがその例です。
都市・生活型公害は産業公害とはちがって,種々の発生源が過密化した都市に集中しているため,その対応は発生源対策だけでは十分でないことが多く,種々の対応策の組合せが必要です。
その一つは,発生源対策です。自動車や航空機,鉄道などの発生源に対しては,低公害化努力が払われてきましたが,今後とも規制の強化を図り,発生源に即した対策を充実することが望まれます。
その二つは,都市構造対策です。土地利用の適正化,社会資本の整備を通じて低公害型の交通体系や流通システム,生活排出物処理システムなどを作ることが必要です。
その三つは,航空機の夜間離発着の禁止や大型自動車の乗入れ規制,合成洗剤の使用の制限などのような部分的な利用規制です。速効性のある有力な手段となるものです。
その四つは,自律的な都市生活ルールの形成です。急速な都市化や人口の激しい移動の中で,自律的な都市生活ルールが十分形成されなかったことが近隣騒音問題の一つの原因となっていますが,都市生活ルールの形成を通じて地域の住民の間で自律的な規制を図っていくことが必要でしょう。

近年,各地で美しく住みよい町づくり,村づくりへの関心が高まっており,その主たる担い手である地方公共団体,地域住民が快適な環境を求めて河川の浄化・清掃,道路・広場等の緑化,町並みや歴史的環境の保全などを行っています。
このような快適な環境づくりを進めていくことは,これまでの公害の防止や自然環境の保全に加えて重要な課題となっています。
快適な環境といっても人々の価値観によって異なりますが,空気のさわやかさ,静けさ,緑とのふれあい,水辺とのふれあい,町並みの美観,歴史的ふんい気,のびのび歩ける空間,レクリエーション施設などは快適な環境を構成する重要な要素と言えるでしょう。
●快適な環境とはどんなものか

快適な環境づくりを進めるに当たって重要なことは,そこに住む人々のニーズに対応しながら,居住環境という言わば地域の人々の共有財産の形成を人々の合意作りに努めながら進めていくことです。
自然や歴史が大部分失われてきている大都市などの地域では自然や歴史の持っていた安らぎやうるおいを新しく創ることが必要です。また,自然や歴史がまだ残っている地域では今ある素材を積極的に居住環境の中に生かしていくことが望ましいでしょう。
このため,国や地方公共団体は,快適な環境を作るための方法を示し,人々の合意形成を通じて人々のニーズを実現していく努力が求められています。
自然環境保全政策は1970年代には従来からの自然公園や野生鳥獣の保護に加え,良好な自然環境を保全するための自然環境保全地域等の保全や身近な自然環境の保全へとその対象を広げてきました。しかし,自然環境保全対策の直面する課題はなお多く,80年代にはなおいっそうの努力が必要です。
その一つは,人と自然とのコミュニケーションを深めていくため,自然環境の現状とその働きを十分把握することです。
その二つは,自然と親しむための施設を充実するとともに,自然環境の利用にともなう様々な弊害を防止することです。
その三つは,優れた自然の保全と都市やその周辺の身近な自然の保全です。
環境には色々あるんだなと思った。